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優しい記憶 −ペットたちとの出会いと別れ−

ペットロス症候群。

最近、この言葉をよく聞くようになりました。誰でもかわいがっていたペットを喪えば悲しいものです。毎日の散歩、甘えたしぐさ、なでてやったときのぬくもり、当たり前のようにそこにいた存在がもういない。

それは、なんてつらく悲しいことでしょう。

そんな思いを文章にしてみませんか。亡くなったペットを悼む気持ちを表すのには、いろいろな方法があります。お墓を作って供養してあげるのもそのひとつです。また、気持ちをを文章にすることでペットとの思い出を形にして残し、そのことであなたご自身の心の整理がつき、安らぎを得る手助けになるのではないでしょうか。

それは、自分だけの思い出として、しまっておいてもいいでしょう。また、同じ思いをしている誰かに、読んでもらってもいいでしょう。

ここでは、社長である私自身の思い出のひとつをご紹介させていただきます。

旅に出たまちこ

まちこ
まちこ

まちこ

岐阜県  渡辺太至

まちこは捨て猫でした。妹の当時高校生だった息子が、学校帰りに拾ってきた仔猫ですが、自宅では飼えないので会社へ連れてきたのでした。僕には妹が二人いますが、二人ともうちの会社で働いています。みんな犬も猫も好きなので、ごく自然に会社で飼うことになりました。

まちこという名前は、考えてつけたものではありません。まだ名前がなかったとき、デスクの上をヨチヨチ歩き回って落ちそうになり、妹がとっさに名前も決まってないのに、

「あ、ちょっとまちこ!」

と口走り、あ、いいなそれ、まちこにしようとそのままあっさり決まってしまいました。苗字から続けると渡辺まちこで、歌手の渡辺真知子と同じになり、なんとなくおかしくてみんな気に入ってました。

朝出勤すると、まちこはどこからともなく現れ、一日の大半を事務所のデスクの上で過ごします。お昼には、食堂にやってきて、みんなから弁当のおかずを分けてもらいます。会社の周りは田んぼや畑なので、時々「狩り」に出かけ、野ねずみやトカゲを得意げに持って帰ってきたこともありました。一日の仕事が終わると、まちこを倉庫へ連れて行き、キャットフードを与えて鍵をかけるのが、僕の一日の最後の仕事になりました。

僕は、まちこの歌を作りました。童謡「さっちゃん」の替え歌です。

 まっちゃんはね まちこっていうんだ ほんとはね

 だけど猫だから 自分のことまちこっていえないんだよ

 あたりまえだね まっちゃん

 まっちゃんはね 動くものが好きなんだ ほんとだよ

 だけど事務所に トカゲやヘビを持ち込んではいけないんだよ

 わかったね まっちゃん

僕は、まちこの世話をしながら、よく鼻歌で歌っていました。

こうして、仕事に追われる人間たちを尻目に、まちこの毎日は穏やかに過ぎていきました。ところがある秋の朝、まちこが姿を現しませんでした。倉庫の鍵をかけたところで、どこからでも出入りできるので、以前にも夜のうちにどこかへ遊びに行き、翌日一日中帰ってこない日も何回かありました。だから、気にも留めませんでしたが、2日たっても3日たっても、まちこは帰ってきません。

僕も会社のみんなも心配しましたが、探すあてもありません。1週間たった頃には、もうみんなあきらめていました。どこかで変なものでも食べたのか、車にでもひかれたのか、それは分かりませんが、とにかくまちこは、もうここへは帰ってこられなくなったのでした。前の晩、キャットフードをやったときが、まちこの元気な姿を見た最後となったのでした。

でも、直接死んだ姿を見たわけではないので、あまり悲しい思いはせずにすみました。フラリとどこかへ行ったまま戻ってこない。なんだか、亡くなった渥美清さん演じるフーテンの寅さんみたいで、こんな別れ方もまあいいかなって思っています。

今でもまちこのキャットフードは、あれから減ることもなく、いつもの場所においてあります。それを見ると、なんだかちょっとさみしくなったりします。
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